« 「となりのトトロ」宮崎駿監督DVDーに感じた遠野の濃い雰囲気ー「陰翳礼賛」谷崎潤一郎(いんえいらいさん たにざきじゅんいちろう)にも通じる世界 | トップページ | 美術作家「やなぎ みわ」Yanagi Miwa氏のベネチア・ビエンナーレ作品の放送を見てーNHK日曜美術館ー美術エッセイ »

リヨン(フランス)で、友人が主催する展覧会へのメッセージ文ー日本文化の伝統、とくに遠野に見いだした原点からー旅と文化のエッセイ

 この前の遠野への旅は、フランスのリヨンで、展覧会を企画していた日本文化・日本学を専門にしている友人には、とてもタイムリーな情報をもたらす機会になったようです。

 遠野に残された古い民家に感じた奥深く力強い瞑想と想像力を喚起する力が、異国にできるだけ伝わることを念じました。

 今、フランスでも日本の伝統的な文化は、相当熱心に学ばれ、流行にさえなっていますが、その真髄を伝えることは、日本人自身にとっても難しいようです。各地を旅してみて、その都度新しい発見に驚かされます。それだけなお、神秘で未知の領域が多く残されたこの国に生まれたことを、こういう機会にまた喜びとして感じました。

 以下が、メッセージ文の草案です。

 最近、日本の東北地方の山間にある遠野を訪れて再発見したことがあります。そして日本文化の深い謎を解く鍵が、ここには豊富に残されていることを見いだしました。民族学者の柳田国男の「遠野物語」で有名なこの土地は、今でも古い伝統的な生活の面影が多く残されています。昔のまま保たれた民家は、茅葺きの重厚な木造家屋で、竈の煙の煤と、人々の生活の跡で黒光りしています。家の中は大変に暗く、障子戸を透かした淡い光が、土壁や太い柱の間に何重にも繊細な光模様を描いています。そして、柔らかな光が消えかかるところには、濃厚な闇があります。作家の谷崎潤一郎が、日本人が愛する安らぎと瞑想の原点として、この繊細な陰影が織り成す心模様を見事に描いた「陰翳礼讚」の世界が、まさにそこには宿っています。日本の漆工芸、陶器、日本画、墨絵、茶道の儀式、華道、能や歌舞伎も、この繊細な影の効果との調和を抜きにしては考えられません。先の「遠野物語」にしても、家の暗がりとほの明かりの間に生まれる愛らしい幽霊と人々との係わりあいや多彩な想像力が生み出した物語が、主に語り継がれたものです。日本人に愛され続けている宮澤賢治の童話も、この地で多く生まれました。

 そのような伝統的な日本文化に残された特性は、最近とくに見直され、新しい技法と組み合わされてさらに興味深い展開を推し進めようとしています。例えば宮崎駿は、新しく繊細なアニメの技法で、先の遠野の古い民家と愛らしい幽霊の物語を彷彿させる「となりのトトロ」という作品を生み出しました。かつて囲炉裏端で語り継がれた物語が、新しい表現によって広く世界に伝えられるのを見る思いです。柔和な照明効果を作り出す和紙で、石の彫刻家でもあるイサム・ノグチは、伝統的な行灯や提灯が醸し出す微妙な明るさを、照明彫刻「あかり」としてデザインし、日本家屋に新たな陰影をもたらし高く評価されました。日本画家の田淵俊夫は、新しい映像プロジェクターと伝統的な墨絵を組み合わせて、京都の智積院の襖絵に、墨の濃淡だけで満開の枝垂れ桜や朝陽、夕陽を、色彩を用いる以上に鮮やかに実現しました。安藤忠雄の建築には、日本の伝統の記憶を意図的に一部に残し、新しい建築技法と組み合わせたハイブリッドの建築構想が見て取れます。

 日本から新しく発信されている芸術、文化作品には、その根に日本の深い伝統が組み込まれ、新しい技術や視点と融合されていることが見て取れます。幸いにも、今でも日本各地には神秘的な伝統が多く残され、日本の現代美術を鑑賞するとき、それらを読み解く大きな手掛かりを与えてくれます。

遠野への旅の記事はこちら!

|

« 「となりのトトロ」宮崎駿監督DVDーに感じた遠野の濃い雰囲気ー「陰翳礼賛」谷崎潤一郎(いんえいらいさん たにざきじゅんいちろう)にも通じる世界 | トップページ | 美術作家「やなぎ みわ」Yanagi Miwa氏のベネチア・ビエンナーレ作品の放送を見てーNHK日曜美術館ー美術エッセイ »

「文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122514/45649570

この記事へのトラックバック一覧です: リヨン(フランス)で、友人が主催する展覧会へのメッセージ文ー日本文化の伝統、とくに遠野に見いだした原点からー旅と文化のエッセイ:

« 「となりのトトロ」宮崎駿監督DVDーに感じた遠野の濃い雰囲気ー「陰翳礼賛」谷崎潤一郎(いんえいらいさん たにざきじゅんいちろう)にも通じる世界 | トップページ | 美術作家「やなぎ みわ」Yanagi Miwa氏のベネチア・ビエンナーレ作品の放送を見てーNHK日曜美術館ー美術エッセイ »