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「ゴーギャン 私の中の野生」(高階秀爾監修)に読みふけってしまいましたーゴーギャン展、竹橋の近代美術館にて

「ゴーギャン 私の中の野生」(フランソワーズ・カシャン著 高階秀爾監修 創元社)に読みふけってしまいました

 電車の中で読み始めると、各駅停車が目的地にできるだけゆっくり着くように願うほどでした。ゴーギャンの生い立ちから、名画が生まれ出る過程と、苦難に富んだ画家の生涯が流れるように書かれていて、物語にすっかり引き込まれました。

 ゴーギャンがタヒチにたどり着く根には、幼いころペルーで過ごした数奇な生い立ちだけではなく、株式仲買人になる前に、水兵として世界中を航海した体験があったのですね。画家になってから、彼の頭の中には、常に南国の島を志す思いがあったようです。そして、どの島を目指せばよいか、土地勘が常に働いていたことも発見でした。Photo

 ゴーギャンが株式仲買人を辞め、画家を志した転換点には、家族を捨てたエゴイストとか、目算のない夢に飛び出してしまった現実感のない男、などとドラマチックに様々語られていますが、そこでのゴーギャンの内面にも一歩踏み込めたような気がします。自尊心と思い込みも確かに強かったようですが、安直ではない崇高な芸術的野心と目論見があったことが、生涯の流れから読み取れました。絶え間なく襲いかかる貧窮と病の中で、それでも名作を次々に生み出していった軌跡の背景には、一貫して強い志があったことが浮かび上がってきます。

 ゴーギャンの手紙も紹介されていますが、むしろ彼を捨てたのは、妻のメットであり、経済的なこと以外は心通わせない冷淡なところが読み取れます。家族思いのゴーギャンに対しても、手紙もほとんど出さず、誕生日のお祝いメッセージすら送ってよこさないと、彼は嘆きを何度も書き送っています。

 ゴッホとの交流にしても、個性の強い画家同士が親密な切磋琢磨と同時に、葛藤にとり憑かれたようにゴッホがカミソリを振り回す場面など、すさまじい共同生活の模様も伝わってきます。ゴーギャンもゴッホに精神病院を受診するよう勧められていますが、ひねくれからそうしなかった、などと手紙には書かれています。

 ゴーギャンがタヒチに渡り、町から離れたマタイエアという原始で素朴な土地に落ち着いたときの静寂の描写は圧巻です。これほど静かで、何も動かない完璧な夜の闇の深さを感じ取ったことはありません。

 ゴーギャンが独特の画風を確立していく過程もとても勉強になりました。ゴーギャンの作品に無意識的にタペストリーのような温かみを感じてしまいますが、それも「区分主義」(クロワゾニスム)という手法を他の画家と競い合って身につけていったものです。

 マルキーズ諸島についに渡ったゴーギャンの晩年も、壮絶なものでした。健康の悪化と土地の紛争にも巻き込まれながら、最後の情熱を燃やし尽くすように多産な創作をしました。

 専門家によってコンパクトにまとめられたこの書には作品の写真も豊富で、芸術の巨人の生涯に、しばしどっぷり浸かって酔いしれることが出来ました。

高階秀爾の本

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