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素晴らしい仕事の達成:Marie Parra-Aledo氏の出版

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「日本美術の二十年間をめぐって:パノラマ1980年~2000年:アートは態度である」
 友人のマリー・パラアレド氏が、長年にわたり現代日本美術に関わった活動を書籍にまとめ出版した。
 三十年余り前、新聞記者としてパリから来日した彼女の触れた日本文化への驚きが、初々しい感性を通じて語られている。
 見るものすべて珍しい中で、詩人でもある彼女の心をやがて深く捕らえていったのは、「もの派」と言われる前衛美術の世界だった。単純な物質や簡潔な表現に還元する方法の中に、むしろ求めていた豊かさを発見する。
 中でも林芳文氏の墨による作品に、深く傾倒していった。彼女は、墨の濃淡による簡潔を極めた表現に、西洋では見なかった、直観が無限に伸びやかに解け広がるイメージの世界を見いだした。
 強く動かされた彼女は、林氏を中心にした展覧会をフランスで企画し、紹介していった。その活動を軸に、書籍は展開されている。

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 初来日した頃の彼女が、いかに伸び伸びと日本の空気を呼吸し、新鮮な驚きにたえず目をみはっていたか、ご記憶の方も多いと思う。魅力的な彼女の周りには、記者として出会った著名な文化人が集い、連夜気さくなパーティーが自然発生的に催され、自由な会話や議論が交わされていた。
 その当時の、彼女の眼に映じた世界が書籍を貫く原点になっている。現代美術のみならず、広い人脈を通じ、西洋の若い女性が出会った日本文化への珍しさと感嘆のエピソードが、個性的で緻密な文章でちりばめられている。
 例えば、ぼく自身にとっても忘れ得ぬ思い出の中で、彼女が新しい文化の出会いとして深い驚きを伴って鮮明に記憶していたのには感嘆を禁じ得なかった。
 それは、彼女が友人とぼくの実家へ遊びに来たときのこと。夕食の後、床の間のある座敷へ移って、うちの母が日本画の掛け軸を恭しく木箱から取り出し、慎重にほどいて壁に掛け、客人にお見せしたことがあった。その箱から取り出す仕草や、厳かな黒髪の若い女性像が巻物から現れる緊張感、壁に掛けられた絵を皆で見つめるときの張り詰めた静けさと調和の時間は、絵の価値を評価したりするものではなくて、篤いもてなしの思いが込められた共感の時間だったと、東洋の新たな心に触れた驚きが濃やかに語られている。
 このような断片が多数集められた書物は、現代美術のみならず、現代の思いがけない日本文化の側面として貴重な記憶ともなることだろう。商業主義や大衆受けとは無縁に、自らの感性の日本文化との出会いを思う存分に書き貫いた意志には、フランス人の強靭で深い叡知を感じる。フランス語に不慣れな人にも、機会があったら東洋と西洋をつなぐ貴重なこの書を、是非傍らに置いてほしいものだと思った。

 

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この書には、物語と絵画の複合として出版したぼくの小説「孵化」の書きだし部分が、彼女の翻訳で掲載されている。現在も翻訳作業は続けられていて、やがてフランスで出版の予定です。

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