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フランスの編集長から直々の契約依頼

 フランスの出版社の編集長から、ぼくの小説「孵化」に対して直々の契約依頼があった。好意に溢れた極上のフランス語での丁重な依頼文。女性が素敵な男性から、御殿での舞踏会に恭しく誘われたときには、さぞやこんな気分になるのだろうなと夢見心地にしてくれるような文章だ。
 小説などに手を染めてから、こんなお手紙をいただいたこともなかった。稀な僥倖なのだろう。フランス映画でよくある場面では、作家志望の青年が出版社から原稿を断られて失恋したり酒に溺れていったりして、そこで新しい人間や人生の展開が始まる。
 だがぼくも、恥ずかしい現実は、rater、つまり失敗とはずれの連続だ。そういうふうにして、絵画と文学の手探りを繰り返してきた。これからも、そうだろう。
 今回のぼくの場合、映画仕立てでいえば、まさに瀕死の床にある老人の元に、昔書いて忘れていた小説原稿が出版されるという知らせが届いたような情景が浮かぶ。そして涙ぐんだ老人の頭の中に、フラッシュバックで回想シーンが次々に描き出されていく……。
 たしかにぼくも、忘れかけていた原稿が、思いがけないところで取り沙汰され始めるという、少々ドラマチックな展開に戸惑っている。
 さて肝腎の小説「孵化」とはどんなものなのか? たった六十枚ほどの原稿だが、一年まるごと賭けた力作には違いない。火山が崩れるような比喩を一つ書くのにも、偶々仕事で訪れた雲仙普賢岳を何時間もぼんやり眺めていた。最後の三行を書くのに谷川水系をさ迷った。幻想にリアリティーを与えるため、ふんだんに取材の足を運び、贅沢な栄養を注ぎ込んだ。
 テーマは、自分を突き動かす創造性のエネルギーがどんな葛藤から生まれてきて、それがどんなに人間性を揺さぶるものか、是非描き止めておきたかったものだ。
 大手出版社の編集者も関心を持ち、編集作業は進んでいた。しかし、雑誌の都合で発表は見送られた。有り体にいって、芥川賞向きではないということなのだろう。新人の場合、賞レースの条件からはずれたものは、編集者が気に入っていても、行き場を見失う。が、「孵化」については、同時に絵画でも描いていたので、合わせて上梓することができた。
 最近、絵の方に夢中になっていて、小説とは距離感も生まれた。新鮮な眼で、他人の小説を読むような感覚で自作に臨んでみた。結構冷や冷やしたが、引き込まれて読めた。
 読後感は、ガルシア・マルケスとかレイナルド・アレナスなどの南米小説のような味がした。翻訳者のマリー・パラアレド氏は、レイモン・ルーセルとかロートレアモンのような感じがするという。いずれにしても、ラテン系の響きがあるようだ。ぼくの中には、ラテンと通じる血が流れているのかもしれない。
 さらにその由来は、北国の故郷の暗鬱な空気に閉ざされた人間の熱い胸の内で、ゆっくり育まれてきた怨念の塊にちがいない。その独特で秘密の雰囲気が、西欧人には未だに神秘な日本に対する異国趣味を強く惹起するのかもしれない。
 今回の契約によって、フランスから日、仏、英語で同時出版されることになる。
 ちょうど絵の個展の開催とも重なり、上梓した「孵化」も、展示することができる。

小山右人個展
2013年4月10日(水)~20日(土)日曜休み
12:00~19:00(最終日17:00まで)
ぎゃらりぃ朋
東京都中央区銀座1-5-1 第三太陽ビル2F
電話 03-3567-7577
http://yujin-koyama.cocolog-nifty.com/blog/

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コメント

「孵化」楽しみにしています。
九州の出身なので、あの時の事は深く記憶に残っています。

私は小山さんの絵が好きです。

とても人に誇れる生き方をして来ていない自分ですが、午年という事も有りや無しや、こんなペガサスで在りたいといつも思います。

小説、挿絵まで御自分の手で作れるなんて素敵ですね。

投稿: foxychild | 2013年4月 6日 (土) 19時32分

foxychild様
 コメントをありがとうございました。個展へのご来場を心よりお待ち申し上げております。
                                      Yujin

投稿: Yujin | 2013年4月 7日 (日) 22時47分

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