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ヒットをねらえ!

ヒットをねらえ!

 新しいフランス語の先生は、ミュージシャンだ。前の先生もそうだったが、偶然だろうか? 他にも同じ志で日本に来た若者を知っている。近ごろのフランスの若者は、ミュージシャン志向なのだろうか?
 二回り上のぼくらの世代には、作家、詩人、画家志向が多かった。
 レッスンの話題は、自ずといかにヒット曲を飛ばして華々しくデビューするかということになる。ポール・マッカート似の若い先生は、日夜寝る間も惜しんでそのことを考え、作曲に励んでいる。
 興味深いのは、フランス人らしくヒットの要件をまず精密に分析することに集中する。
「例えば最近、ユーチューブで大ヒットしたものに何がある? それはなぜか、理由をあげてみて?」
 さて、そうして細かく出てきた要素を組み立て直せば大ヒットが飛ばせるか? 疑わしい気がする。何か大切なものが小刻みにされるだけで、かえってエキスが薄まっていく感じがする。アプローチのし方に決定的な誤りがあるのではないか?
 さて、まず肝心の彼の音楽を聴いてみる。ぼくの印象だが、コンピューターを駆使した音色は確かに美しい。しかし、イントロが長すぎる。いつまで経ってもいいところが始まらない。
 小説でも絵でも共通の、初心者にありがちな過ちを犯している感じがする。
 一瞬にして鑑賞者の心を掴まなければだめだ。ただでさえ慌ただしい世の中、聞き手はすぐに次のボタンを押してしまうだろう。
 ぼくが例を上げて彼に勧めたのは、「サティスファクション」ローリング・ストーンズ、「ヘルプ」「イエスタデー」ビートルズ、「アイラブユー」尾崎豊。ありふれたものだが、ヒットの要素をふんだんに含んでいる。
 とくに「サティスファクション」は、60-70年代の若者たちの、やる方ない欲求不満と憤懣の心を、ミック・ジャガーのたった一言で鷲掴みにした。ベトナム戦争の最中、はけ口を失っていた欲望が渦巻く重苦しさは日常だった。
 分析は、今の時代の深層に踏み込むべきではなかったか? 目先にぎわっているユーチューブのサイトを刻むだけでは見えてこないものがある。
 ならば、現代の若者に共通し、はけ口を求めて蠢いているルサンティマンは何か? それさえ見つかれば、一言で心を鷲掴みにできるかもしれない。時代を解放に導くステージのヒーローになれるかもしれない。カリスマに躍り出るチャンスだ。
 ある精神医学の研究会で、現代の若者の心性をテーマに取り上げたものがあった。その中で、ある演者いわく、今の若者に共通している気持ちは「寂しさ」だと。ヒットした歌には、必ずといってよいほど「寂しい」という言葉、ニュアンスが含まれているというのだ。
 なるほど。ベトナム戦争の頃とは打って変わって時代は豊かになった。不況とはいえ、当時とは比べ物にならないくらい便利な機器に囲まれている。欲望はそこそこに充たされている。人間関係の煩わしさからも、一定の距離を置くこともたやすくなった。一方で生まれたのは、個人の孤立だ。「寂しさ」は募り肥大する。
 そういえば、尾崎豊の「アイラブユー」にも「寂しさ持ち寄り」というフレーズがあったな……。
 どうやら「寂しさ」が、「サティスファクション」に替わり時代のキーワードの第一候補といってもよさそうだ。
 それを若いフランスのミュージシャンにも提言したが、頑固な彼は、キツネに摘ままれたような顔をしていた。これからゆっくり説得していくしかないだろう。
 好奇心旺盛なぼくは、じれったさを感じ、自分でさっさと作曲してみたい誘惑にも駆られる。
 このことは、他のフランス人にもメッセージを発信するだろう。向こうでも、若いミュージシャンが「寂しさ」をどんどん歌い始めるかもしれない。
 日本の若いミュージシャンも負けるな。
 さあ、世界の若者よ、「寂しい!」と叫べ。それが大ヒットの秘訣だ!

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