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たった一度の愛の告白に賭けた声

小山右人

「話してごらん?」
私は君に向き合い話しかける。君は首を横に振ったきり、頑なに口をつぐんだままだ。しかめ面に空疎な笑みを浮かべると、鉛筆を胸ポケットから取り出し、机上のメモ用紙に書きつけた。
〈話すと良くないことが起こると、もう一人の自分が脅すんです〉
ぽとりと鉛筆を落とすと、一転悲しげに私を見つめた。その眸は異様なまでに澄んでいるにもかかわらず、まるで生気が感じられない。空無そのもの。
こんなに底知れない怯えに、人知れずおののいている人と、私はかつて向き合ったことがない。しかも、理不尽な理由で。
君は、たった一度の愛の告白を、片思いの女性に拒絶されたことで声を失った。それ以来、君の中に『もう一人の自分』が君臨し、声に出して話すことを固く禁じてきた。僭主的な自分は四六時中君自身を見張り、君が一言でも話そうとすると、救い難い不安にまで突き落とす。
君が再びうっかりしゃべって、魂が傷つくことを恐れ、見張ろうというのか? しかし、君のためを思う善意など微塵もない、冷酷な監視を続けている。一言も言葉を発せられない君は、恐怖の檻に閉じ込められたも同然だ。声に出して話すことは、そこまで魂にとって危険な行為なのか? 声だけは、そんなに特別か? なぜ、声だけが?
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